こんにちは。せのしゅん(@senosyun_archi)です。
不動産業界で働きつつ、個人投資家として投資に注力し、
セミリタイアを目指しています。
先日こんな論文を見つけました。
結論としては、日本で株式等への投資が進まないのは、
中古住宅市場の流動性が低いことが関係している可能性がある、
ということでした。
内容として、非常に興味深かったので、
ざっくり掻いつまんでレビューしつつ、
私の意見もお伝えしていこうと思います。
家計における金融資産と土地・住宅資産の保有の関係|論文をカンタンに紹介
この論文は大きく3つに分解できます。
- 家計の状況
- 中古住宅の市況
- 家計の資産構成と中古住宅市況
1つずつ解説します。
家計の状況
まず家計の資産残高の推移です。
全体感としては、
1990年ごろバブルのタイミングで土地の資産額が頂点に達し、
バブル崩壊後は現金・預金が増えています。
一方で株式の資産残高は一貫して低いまま。
ここまでが日本の家計の全体像です。
続いて、地価の上昇率と
消費者物価指数(いわゆるインフレ率)の図表です。
バブル期までは、地価の上昇率がインフレ率を大きく上回っており、
非常に収益性が高かったことがわかります。
ここで私から1点指摘しておきたいのは、
バブル期であっても、インフレ率は低水準だった、
ということです。
物価は大して上がっていないものの、
土地の値段だけが上がるという
異常な現象だったことがわかります。
バブル崩壊以降は、下記の状況が起きています。
- 【地価の上昇率】ずっと低水準。地価が上がらないので、土地を買っても儲からなくなってきた。
- 【インフレ率】ずっと低水準。マイナスの時期もあり、いわゆるデフレ。
失われた30年が上記の状態ですね。
次に、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産である」
というアンケート調査結果です。
これを見ると、やはりバブル崩壊を境にして見解が変わり、
「そう思う」と「そうは思わない」が拮抗しています。
ここで最初に意外だと感じたのは、
「そうは思わない」人が多いこと。
日本では持ち家志向が非常に強いですが、
株式よりも土地が有利とは思わないのに、住宅を買う人が多い、
というのが違和感でした。
でも、次の日米の家の価値観の比較で理由がわかりました。
そもそも日本では家を投資対象として見ている人が少なく、
家族の団らん、疲れを癒す場所、
と捉えられていることが理由です。
ただし、ここでハッキリ言っておくと、
米国の理解のように、住宅購入は明らかに不動産投資です。
自分で買った不動産に自分が住むことで、
賃料の支払いを相殺しているに過ぎません。
大家さんみたいなものです。
(自分が住む分の賃料以上のリターンは出ませんが)
この感覚の違いが、
日米の土地所有の考え方の違いになっているわけですね。
次に見ていくのが、世帯主の年齢別資産構成です。
この図で注目したのが、
バブル前後ならまだしも、2014年においても、
自宅関連の資産割合が圧倒的に多いということです。
なんと平均で家計の57%、
30~39歳においては65%が自宅という資産割合です。
家計の資産運用は、
土地建物を含めた自宅の価値が支配している、
と言って良いでしょう。
私の家族含めて、日本人は不動産を持ちすぎでは、
という印象を持っていましたが、
まさかここまでとは・・・
これは完全に一極集中投資の戦略で、
資産運用の原則である「分散投資」から、
大きく逸脱しています・・・
次のグラフもかなり衝撃です。
この図で言えるのは、
年収が下がっているのに負債は激増している、
ということ。
とは言え、
税金が優遇されるからたくさん借金して家を買う、
と言うなら、それは本来投資対象として評価すべき。
でも、地価は上昇していないのだから、
投資対象としての住宅購入はゴミ、ということです。
とにかく今の日本の家計は、
住宅ローンという借金でレバレッジをかけまくり、
一極集中投資をする、というとんでもない状態になっているワケ。
日本のマネーリテラシーが低いのは、
この辺りにも表れていますね・・・
中古住宅の市況
次に少し視点を変えて、
日本の中古住宅市況についてです。
まず総論として、
日本の住宅市況は、ほとんどが新築住宅によるもので、
中古の流通は海外と比べてもまだまだ未発達です。
その理由の1つとして、
中古住宅の資産評価手法が上げられています。
住宅というのは、
新築購入後の数年で大幅に減価することになり、
これが持ち家を手放して売却できない一因になっているのでは、
ということです。
実際に、住宅投資額は伸びているのに、
住宅の資産額は伸びていないという乖離が起きています。
(つまり、資産評価ができていない)
これが、日本の中古住宅市況の実態です。
家計の資産構成と中古住宅市況
いよいよこの論文のクライマックスです。
前半で述べたように、
家計のほとんどを支配する住宅資産ですが、
「実は中古住宅市況が発達していないために、
株式等に投資することが出来ないのでは?」
という仮説を筆者は検討しています。
その図表がこちらです。
中古住宅の流通度と株式等の資産保有率は、
正の相関があります。
※なお正の相関があるからと言って、
因果関係があるかはわからない、という点には注意
つまり、日本の家計は住宅の流動性が低いことにより、
現預金への選好が高まることから、
結果的に株式等へのリスク資産の割合が減ってしまう、
と推測できるのでは、ということです。
以上が、この論文の概要です。
日本の家計は不動産を持ちすぎ
この論文でも述べられていた通り、
家計は自宅という不動産に大きく依存しています。
収入のほとんどが自宅購入に充てられて、
自宅の価格が資産運用の成否を決める、
というのは、正直あまりも極端な投資戦略ではないでしょうか。
分散投資を徹底するなら、
賃貸住宅に住んで、全世界に分散して株式を買うのが、
妥当な資産運用だと考えます。
結婚して30歳前後になったら家を買うのが当たり前、
という風潮はまだ根強いですものの、
自分でリスクとリターンを天秤にかけた上で、
判断することが肝要と考えます。
私自身、まだまだ世の中の常識に凝り固まっているときも多いので、
引き続き自分で調べる習慣を身につけていきたいと思います。
この記事はここまで。
では。おしまい。